自分なりのシナリオがあり、常に次にはどういう手を打とうかと考え、それに沿って社外のコンサルタントをうまく活用する人間がいればいるほど、改革は進みやすくなるのだ。
最悪のケースは社外プロセスデザイナーを活用するのではなく、管理しようとする場合である。
管理しようというタイプは例外なく大局観を持たないタイプで「軸」というのはその行動の際の判断基準になるものを提供する、いわば価値観である。
何を大切にし、何を大切にしないのか、が明確であるとわかりやすい。
例えば「軸」に相当するものとしては、先に説明した七つの習慣、つまり常に「なぜ」「本当の問題は何」を繰り返す、相談する、事実に基づく、提案する、まずはやってみる、などがある。
そういう姿勢をみんなで共有するのは行動指針を共有することであり、”どういう行動を選択するか”という基準を持つことにもつながるため、まさに一つの軸である。
例えば自治体の例で言うと、三重県の北川正恭知事の提唱する《生活者起点》(生活者にとってどういう意味があるのか、を常に問い直す)も明確な軸である。
三重県の職員とまじめに雑談をしていて議論が少し見えなくなったときなど、多くの職員がこの《生活者起点》という言葉に戻って考えようとする。
判断の基準になりつつあるのだと思われる。
同じく、市場(顧客)に対してどういう姿勢をとるのか、という判断の基準が明確であることも大単に多く売れとか、利益を上げろ、シェアを伸ばせ、というのは価値観の刷新を伴うような判断基準ではないから軸にならない。
何を今までと変えていけばいいのかが明確にならないからだ。
これに対してAビールが「スーパードライ」の発売時に打ち出した、お客のために《新鮮なビールを飲んでもらう》という方針は、市場に対する姿勢としてはきわめて明確でわかりやすい判断基準であり軸であった。
ビールの賞味期限は通常九ヵ月とされ、店には期限切れの売れ残りビールが置いたままの状態であったときに、製造から三カ月を過ぎた商品はつくりたてのものと交換し、古いビールは廃棄する処置をとった。
車の販売では《お客の数を増やそう》というのは軸である。
単に「売れ」とか「シェアを伸ばせ」では何をやってもいいことになり、市場に対する姿勢が見えない。
客の数が増える、というのは客を大事にするからであり、客との関係がより深まっていることを意味している。
単に売る、という行為だけではつかまえきれない意味を持った内容を多く含んでいるのだ。
客の数を増やすことが、結果として利益やシェアを伸ばすのである。
もう一つ「軸」として明確にしておいたほうがいいのは、組織活動の要でもある、どのようにして意思決定を行うのか、という点である。
つまり「意思決定の仕組み」である。
よく権限委譲というようなことが言われる。
この言い方はあいまいで、意思決定を伴わない日常の処理作業を任せることを指すだけの中身であったりすることも多い。
意思決定の仕方に変化がなければ、任せると言っても単なる見せかけだけで何の効果もない。
大切なのは、どういうときにだれが意思決定するのか、が明確にされていることなのだ。
例えば、《担当者が衆知を集めて自分で決める》という原則は、だれがどのように意思決定をするのかを軸として明確にした例である。
この場合、決定された結果はメールで公表され、異議のあるときは○日以内に言う、というようなサブのルールも軸に連なる要素である。
軸というのは判断基準になるものだから、ともすれば多岐にわたりすぎやすい。
しかし、できるだけシンプルにする必要がある。
シンプルでないと結局、使えなくなってしまうからだ。
「ありたい姿」が明確になり「軸」がしっかり共有されたら、次に大切なのは変革の中核を担う人々、つまりシナリオを描く主体そのものをどう準備するのか、という点である。
言い換えればシナリオというのは描き方が理解できたからといって実際につくれるものではない。
変革に主体的に取り組むという意志がある「人」が現れ、シナリオを描こうという意志を持ったリーダーが準備されて初めてシナリオを描き展開できるのだ。
企業の変革にトップの果たすべき役割はきわめて大きい。
あえて言うならば、本格的な変革劇はトップのリーダーシップなしには起こりえない。
植物の成長のたとえで言うなら、トップは太陽の光なのである。
光なしに植物の成長はありえない。
もちろん、企業が本当に変革していくには、トップが一人で頑張っても結果は出ない。
よく、企業というのは社長一人で悪くはできるが社長一人で良くはできない、という言い方をする。
いくら優秀なトップでも一人相撲になっていたのでは、仏はつくっても魂は入れられないからだ。
雑誌などで、企業や自治体がトップの活躍で変わったことが記事になったりすることがある。
この場合、仏がつくられただけでなく本当に魂も入っているなら、その実態はけっしてトップが一人相撲をとっているのではない。
トップのリーダーシップに呼応して人々が本気の「思い」を持って動いたから改革に魂が入っていった、ということだからである。
しかし残念なことに、改革劇の多くはトップだけが一生懸命頑張っている、という意味で一人相撲になってしまっている。
もちろん一人相撲にすらならなかった東京都の青島幸男元知事のような例はあるにしても、トップにそれなりの力さえあれば強引にでも施策の方針変更など、できることはそれなりにあるからである。
このような施策の変更は目立つし、マスコミにも騒がれやすい。
しかし、中身がないときはしばらくするとポロが出始める。
トップが旗を振っても本心ではだれも動いていないからだ。
一人相撲になっていない状態、というのはトップの方針や政策上のリーダーシップだけではできないことができ始めていることである。
中身のある改革というのは、現場で実際に働いている人の創意工夫が生かされないと実現できない。
自治体の例で言うならば、I知事の東京都にしてもT知事の長野県にしても、改革が本当に中身を伴って進行するかどうかは、自らシナリオを描ける職員がどれくらいいて、その人たちがキーポジションをどれほど占められるか、にかかっている。
改革断行内閣を宣言しているK首相の場合も、自民党内の動きばかりに焦点が当たっているが、その成否は省庁の内部に小泉さんと「思い」を本気で共有するような人物を何パーセント発見できて、この人たちに実際上どの程度のリーダーシップをとらせることができるか、この人たちが改革のシナリオを描くことができるか、にかかっていると言えるだろう。
本気になって動く人が必要と言っても、全員が同じように動く、というようにイメージするのは間違いだ。
人というのは本当に一人ひとり違うから、いくらトップのリーダーシップが優れていたとしてもみんなが同じように改革のシナリオを描き始めるということは起こりえない。
指示されたからではなく、自分の改革への「思い」があって、しかもリーダーシップもとれる人間というのはそんなに多くない。
全体の数パーセントでもそういう人が顕在化し、しかも、その人たちのシナリオを有効に機能させることができて初めて改革というのは自分の力で動き出す。
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